第33章

◆第33章 聖母の国2◆

◆33-1 戦いの始まり

 サバリア城・アラクネの間。

【アラクネ】「うふふっ、素敵。これでしたら普段から身に付けていても贅沢に見えないかしら?」
 アラクネは派手さはないが気品ただようイヤリングを付け、鏡に向かってポーズを取る。そんなアラクネの耳に城内のざわめきが届く。

【兵】「───!」
【サバリア国王】「───!」

【アラクネ】「何かありましたか?」
 王の間の扉を守る衛兵───アラクネ親衛隊の一人に尋ねる。
【衛兵】「なんでもどこかの基地が賊による襲撃により占拠されたとか。サバリア王を呼んできます。詳しくは王に聞いて下さい」

【サバリア国王】「騒がしくして申し訳ありません。東のアポガ基地、西のクボン砦が何者かに制圧されました」
【アラクネ】「隣国の侵略でしょうか?」
【サバリア国王】「いえ、戦争協定のシナリオ外です」
 為政にも口出ししているアラクネは戦争にシナリオがある件など、王家のみに伝わる秘密についても知っている。
【アラクネ】「それは面白・・・・・・いえいえ、大変なことになりましたね」
【兵】「王、賊の正体が判明しました。円の旗が掲げられたとのこと!」
【サバリア国王】「円の教団? 奴らが何をしに」
【アラクネ】「久しぶりに聞く名前ですね。最近はどの様な評判なのですか?」
【サバリア国王】「反体制勢力として時代・場所で色々な顔を持つ集団ですが、この付近では“義賊”という評価でしょうか。私腹を肥やす者から奪い、持たざる者に配る。その様な慈善活動を各地で行っております」
【アラクネ】「まぁ、素敵。気が合いそうです」
【サバリア国王】「・・・・・・(この女はいけしゃあしゃあと)
 我が国は聖母アラクネ様のおかげで、裕福な者は進んで慈善活動を行っています。よって、あやつらが来る理由などないはずなのですが。・・・・・・いや、あるとするならば・・・・・・」
【アラクネ】「あるとするならば?」
【サバリア国王】「こんな話を聞いたことがあります。『国を持つ』。これが円の教団の悲願だと。そこで小国である我が国に目を付け、建国の足がかりにしようと画策したのでは? まあ、円の教団の理由はどうあれ、追い返さなくてばなりません」
【アラクネ】「そうですね。これを利用して、子供たちを救うために、いつものようにアラクネ親衛隊参上───と行きたいところですけどどうでしょう?」
【サバリア国王】「何日かかる戦いになるかわかりません。決戦の目処が立った頃に馳せ参じるという作戦でどうでしょう? ピンチの子供たちを準備させておきます」
【アラクネ】「うふふふ、いいですね。素敵☆」
【サバリア国王】「そこでですが、アラクネ様にはお力をお貸し願いたい。敵勢力が二分されていることにより、王族の親衛隊、王都警備隊までを動員したい状況です。つまり王都が完全に無防備になってしまいます」
【アラクネ】「わかりました。留守中の城の警備ですね。それは私の親衛隊に任せて下さい」
【サバリア国王】「お願いいたします。アラクネ様の親衛隊ならば、安心して任せられます」



◆33-2 アラクネ討伐戦・開戦

 翌々日の夜。
 サバリア城・付近。

【ファーケン】「依頼主は国王だと?」
【エンカイ】「王様の口添えでもなければ、神剣なんて借りて来られないでござるよ」
【ナトウ】「反体制組織の俺らにとって、宿敵中の宿敵じゃねーか。まさか王族にも支援者がいるのか?」
【メイレン】「うーん、それはどうでしょう? 依頼するにしても、知り合いの知り合いの知り合いくらいのクッションを挟んで、バレないようにしていますわ。まぁ隠しても、こう暴いてしまいますけど」
【ナトウ】「それじゃ、舞台の準備は完璧ってことだな」
【メイレン】「ええ。今、サバリア城にはアラクネの一味しか残っていませんわ。正面から堂々と乗り込みますわ」
【ナトウ】「いいねぇ。小細工無しで」
【ファーケン】「がははははっ! 突撃だ!」

 ▼

 サバリア城・城内。

【親衛隊】「さすが、しょぼくても王族。いい酒飲んでるぜ」
【親衛隊】「食べ物もな。食堂の在庫、自由にしていいとは気前がいいぜ」
【親衛隊】「おーい、モーズ。誰かモーズを知らねーか?」
【親衛隊】「隊長ならアラクネ様に連れて行かれたよ」
【親衛隊】「ご褒美タイ~ム。ダグランが代役で指示出してるよ」
【親衛隊】「あー、ならいいわ。俺にも一杯くれ」
【親衛隊】「アラクネ様・・・・・・かわいいよな。うひひ」
【親衛隊】「体は若い頃ままと言うしな。ピチピチだし、初々しいんだよな」
【親衛隊】「羨ましいわ~。そっちのお遊びはイケメンに限る、だもんな」
【親衛隊】「たまにご乱心で、マッチョなブ男に大勢で───なんてシチュエーションをご所望の時もあるぜ」
【親衛隊】「マジか! 良し、変な髪型にして変な化粧でもしてみよう」
【親衛隊】「お前なら、ノーメイクで行けるだろ」
【親衛隊】「お、そうか? ・・・・・・って、それ悪口だろ!」
【親衛隊】「わはははは」
【親衛隊】「報酬はいいし、かわいい聖母様自らのご奉仕付き。ごちそうと酒にありつけることもある。いい職場だぜ」

 ゴーン、ゴーン、ゴーン! 
 銅鑼の音とともに隊員が駆け込んでくる。
【親衛隊】「敵襲! 敵襲だ!」

 ▼

 アラクネの間・寝室。

【アラクネ】「あん、これからだったのに」
 ほろ酔い、ガウンだけのラフな姿。ご褒美タイムの前にいちゃいちゃ楽しんでいたところだった。
【アラクネ】「まさか、もう東西のどっちかの砦から侵攻してきたのですか?」
【モーズ隊長】「いや市民に紛れていたのでしょう。少人数です。50人くらいか・・・・・・大した人数じゃありません。こちらは全隊員200人が待機しています」
 モーズは屋根に登り外を覗く。建築物の高さ制限のため見晴らしが悪いためである。
【モーズ隊長】「ギャラリーもいないことですし、本気でちゃっちゃと始末してしまいましょう」
 部屋に戻り、鎧を装着。
【アラクネ】「うふふふ。お願いします」
 それを手伝うアラクネ。身長やや低め、若い、可愛い。
【モーズ隊長】「あーもうかわいいなぁ。アラクネ様パワー・チャージ!」
 ハグしてアラクネの小さな頭を胸板に押し付ける。
【アラクネ】「むぎゅっ。もう、公私はしっかりと。私もすぐに向かいますから無理をしないように」
【モーズ隊長】「はっ! それではアラクネ親衛隊、敵襲に対応します!」
 モーズは現場へ向かう。

【アラクネ】「さて、私も準備を」
 軽装の鎧に着替える。ひょいっと魔法石に手を伸ばし、それをボリボリとかじり飲み込む。

 ▼

 サバリア城・城門。
 人類同士のいざこざは想定外のため、元々城門は開門状況。建築物の高さ制限のために塀も低い。円の教団はあっさりと城の庭に侵攻し乱戦が始まる。

【親衛隊】「ヒーラー、シールドを急げ! 前衛を優先だ!」
【親衛隊】「弓隊、敵を近づけるな!」
【親衛隊】「後退! 無理をするな! すぐにアラクネ様が来る!」

【ファーケン】「シールドしてるやつが出てきたぞ。やはり戦士か!」
【エンカイ】「ギャラリーのいる時は兵士のふりをさせているのでござるよ。シールドがない方がアラクネの治癒能力が活きるという狙いでござるな」
【ナトウ】「その方が聖母っぽいってことか。色々と考えるねぇ」
【ファーケン】「ギャラリーのいない今は本気ってことだな。そうじゃねぇと手応えがねぇ! おらおら、掛かってこい!」
 最前線で暴れているのはこの三人。

 そして、円の教団勢の後方。

【ミランカ】「豪剣と猛犬だったか? 活きがいいのを見つけてきたな、山猫」
 円の教団、大隊長格。本作戦「アラクネ討伐戦」の総指揮官。

【メイレン】「活きが良いのに先駆けを任せると、バフが乗りますわ」
【ミランカ】「この勢いのまま、城内まで押し込んでしまえ!」
【メイレン】「城内だと一網打尽にはしやすいのが長所。いえ、逆に短所になって一網打尽にされる可能性もありますわ。あえて城内を選ぶ理由は───」
【ミランカ】「細かいことは気にすんな! いざの時は閉じ込めて城ごと焼き討ちよ! わはははは! 良く燃えそうな木造建築だ! 知らんけど」
【メイレン】「アネさん、大雑把! あー、こういう人でしたわ。勘と勢い任せ!」

『青き炎の侵略者・ミランカ』元・五ツ星軍師。
 猫族の猫忍者・女。年齢不詳。老年に近いはずだが見た目は老けない種族のために少女に見える。早い話がロリババァ。直感に優れた軍師と評判。“アネさん”と呼ばれ皆に慕われる。
 ミランカはメイレンにとって、円の教団に入って以来の上司。共に出身はウル王国・ヤマガクレ村だが円の教団に入るまでは面識はなかった。なお、ミミルの出身地でもあるが、血縁関係があるようなドラマティックな展開はなし。

 ▼

 サバリア城・エントランスホール。

【モーズ隊長】「おいおい、攻められすぎだろ!」
【親衛隊】「遅ぇぞ、モーズ。お楽しみだったか?」
【モーズ隊長】「お陰様でお預けだぜ。なんだ、たった三人に攻められてるのか?」
【親衛隊】「ヒーラーが少ねぇんだから仕方ねぇ」
【モーズ隊長】「シールドなんていらねぇだろ! 出るぜ!」
【親衛隊】「そりゃ無茶だ! 隊長!」

【ファーケン】「隊長だと!? ワシがいただきだ!」
【ナトウ】「あっ、ずりぃ」

【ファーケン】「どりゃぁぁぁっ!」
【モーズ隊長】「おおっ! こいつは力じゃかなわねぇ! よっ! そらよっ!」
 ファーケンの強打をモーズは受け流す。バランスを崩したファーケンに、すぐさま一撃が入る。最初の攻防でダメージを負ったのはファーケンだ。
【ファーケン】「ぬぉっ! こいつは、手強い! がははははっ!」
【モーズ隊長】「くっ! くっ! くあっ! このパワー馬鹿が! ちっ! 喰らいやがれ! 風よ、刃と共に渦巻け!」
 ピキッという音と共にモーズが必殺技発動の発光に包まれる。手には7本のナイフが握られていた。
【ファーケン】「必殺技か! ならばワシもだ! がははははっ! 獰猛なる牙よ、敵の喉元に喰らいつけ!」
【モーズ隊長】「切り刻め!」
 ナイフが飛び交い、四方八方からファーケンを切り刻む。
【ファーケン】「いていてっ! シールドの上から切り刻んて来やがる! ぬおおおっ! 必殺っっっっ! 闘犬の牙ァァァァッ!!」
【モーズ隊長】「しまった!」
 下段、上段の二撃。一撃目の下の牙により浮かせられ、モーズは足の踏ん張りを失くす。バランスを崩したところに二撃目、必殺の上の牙が迫る。モーズの左腕が切断され、地面に叩きつけられた。
【ファーケン】「ぬっ! 貴様、シールドを掛けてないのか!?」
【モーズ隊長】「くっ!」
【ファーケン】「うおっ!」
 逆にファーケンの方が焦ってしまう。その隙にモーズはファーケンに一打浴びせて、切断された腕を拾って逃げる。

【モーズ隊長】「くっ・・・・・・ざまぁねぇ。強ぇぞ! 気をつけろ!」
【親衛隊】「よし、二人で行くぞ!」
【親衛隊】「隊長、止血を!」
【モーズ隊長】「ああ、すまねぇ」

【アラクネ】「もう、シールドなしで無茶しすぎです」
【親衛隊】「アラクネ様だ!」
【親衛隊】「アラクネ様が来たぞ!」
【モーズ隊長】「早速ですみませんが、これ、お願いします」
 モーズはちぎれた腕をアラクネに向けて振る。
【親衛隊】「アラクネ様、こっちもお願いします!」
【親衛隊】「こっちも! こいつ内臓まで行ってます!」
【親衛隊】「くっ、ぐはっ」
【アラクネ】「えっと・・・・・・広域でまとめて行きます。大地の力と魂の呼応を───肉体を魂の形に。キュア!」
 光が降り注ぐ。
【モーズ隊長】「ふぅ~。助かりました、アラクネ様」
 モーズの左腕が繋がる。手をグーパーさせてみせた。
【親衛隊】「ふぅ、死ぬところだった。アラクネ様、感謝です!」
【親衛隊】「よーし、酔いも覚めたぜ!」

【ファーケン】「腕が繋がっただと!?」
【エンカイ】「広域かつ強力。なんという魔法力・・・・・・致命傷を与えた敵もすっかり元気でござる」
【ナトウ】「今朝付けたヒゲ剃りキズが治ってるぜ」
【ファーケン】「さっき付けられた切り傷も治っておるわ」

【ミランカ】「わはははは! 気前がいいじゃないか、アラクネ」
【メイレン】「何を呑気な・・・・・・。いつでも戦いをリセットできるということですわ。ものすごく厄介ですわ」

【アラクネ】「次はシールドを・・・・・・いえ、戦士が相手ならこっちの方がいいかしら? 大地の力と魂の開放を。───シールド解除!」
 アラクネはクスリと笑って魔法を発動。広域に光が降り注ぐ。

【ナトウ】「なっ! シールドが解除された!」
【親衛隊】「うわっ、俺たちのシールドも解除されてる! アラクネ様!?」
【モーズ隊長】「いや、これでいい。シールドなし同士の戦いなら、俺たちが有利だ! アラクネ様も面白い事を考える!」
【ナトウ】「舐めんなよ。戦争帰りだ。シールドなしは俺たちも慣れてるぜ!」
【ファーケン】「ガハハハハッ! ワシはむしろベテランよ!」

【メイレン】「あー、お馬鹿! 何がどうアラクネが有利なのかわかってないですわ!」
【ミランカ】「あの治癒魔法の威力ならば、シールド回復のごとく治癒を使える。それに・・・・・・おーい、魔法使いはこの場合どうなる?」
【円の教団・魔法使い】「通常魔法にはシールドの効果が必要だ。使えるのは必殺技のみってことだな。まいったな。これでは大して役に立てそうにない」
【メイレン】「比べて、向こうの後衛は弓隊が中心ですわ」

【円の教団・ヒーラー】「こっちへ! 大地の力と魂の呼応を。力を鎧に。シールド!」
【円の教団・大鎚使い】「よし、シールドさえあれば! わははは、この巨大ハンマーの餌食になりたいやつは掛かって来い!」
 大鎚使いの筋肉が二周りほど大きくなる。重そうなハンマーを軽々と持ち上げた。

【アラクネ】「そうは行きません。大地の力と・・・・・・面倒なので詠唱省略。───シールド解除!」
 円の教団のヒーラーを中心とした一帯に光が降り注ぐ。

【円の教団・大鎚使い】「おおお、おおお、重っ! こりゃだめだ! すまん、俺は撤退する!」
 大鎚使いの筋肉がしぼむ。ハンマーを持ち上げてられず、引きずりながら撤退した。

【アラクネ】「うふふっ。残念でした」

【メイレン】「シールドの効果による特殊能力は無効にされますわ。これは参りました。シールドを解除した時の団員のスペックはさすがに把握してませんわ」
【ミランカ】「シールド解除を防ぐ魔法ってないのか? ないよなー。誰がこんな事態を想定するかーい!
 ならば、短期決戦だ! 魔法使いは必殺技をぶっ放して混乱させて撤退! 忍者は混乱に乗じて中央をこじ開けろ! アザ隊、準備! 一気に勝負だ!」
【メイレン】「大雑把だけど思い切りが良く迅速! なるほど、こちらに有利があるとしたら適度に忍者の数がいることですわ。屋内ならば、立体的に動ける忍者が活きますわ」
【ミランカ】「わははははっ、細かいことは気にすんな!」
【メイレン】「あ──っ、これも勘ですわ」

【円の教団・魔法使い】「地と水と空気の災いを───痺れろ!」
【親衛隊】「うわっ、体が」
【アラクネ】「はい、ヒーリング!」
【円の教団・魔法使い】「やはり状態異常系はさっぱり通じないか。私たちは役に立ちそうにない、撤退する! 外の待機組に伝言はないか?」
【ミランカ】「そうだな。対超人班以外の魔法使いは撤退! 代わりに弓使いを呼んで来てくれ!」
【円の教団・魔法使い】「了解、アネさん!」

【エンカイ】「にんにん」
【円の教団・忍者】「にんにん」
【円の教団・忍者】「にんにん」
【円の教団・忍者】「にんにん」
【親衛隊】「て、天井を走っているヤツがいるぞ!」
【親衛隊】「忍者だ!」
【親衛隊】「うわ、煙幕!」
【親衛隊】「こらっ、屋内で爆薬はやめろ!」
【ナトウ】「今だ! こじ開けるぞ!」
【ファーケン】「おらおらおらおらっ!」

【モーズ隊長】「大混乱だ。アラクネ様、何とかなりませんか?」
【アラクネ】「うふふふ(苦笑)これはヒーラーじゃ何もできませんね」
【モーズ隊長】「あー、やっぱり」
【アラクネ】「治癒が必要な人は手をあげて下さい。はい、キュア! キュア! キュア!」
【親衛隊】「おっ! 治った!」
【親衛隊】「こっちもお願いします」
【円の教団・戦士】「へへへ、サンキュー」
【親衛隊】「あ、こいつ紛れて!」

【メイレン】「単体への魔法は無詠唱ですわ」
【ミランカ】「あれだけの実力者ならば当然できるだろうな」

【アザ】「! 道が見えた! 行くぞ───我は這い寄る蛇」
 混戦の中、アザの目にはアラクネに到達できる一筋の道が光って見えた。ピキッと魔法石が1つ割れる音。アザはうねりながら滑るように駆ける。

【アラクネ】「死なないで下さい。死ななければ、何度でも回復───!?」
 アラクネが必殺技発動の音がした方向に視線を動かした時には、アザはもう目前で剣を振り下ろしていた。

【ナトウ】「! 行くぜ」
【ファーケン】「おうよっ!」
【エンカイ】「にんっ!」
 アザの動きを見て、三人も必殺技発動の発光に包まれる。

【アザ】「ハッ!」
【アラクネ】「きゃっ!?」
【ミランカ】「入った! あれでしばらく、超人の無敵結界が途切れる」
【アラクネ】「ダメージ!? まさか神剣?」

【ファーケン】「獰猛なる牙よ、敵の喉元に喰らいつけ! 必殺っっっっ! 闘犬の牙ァァァァッ!!」
【メイレン】「下段の一撃で付近の敵を吹き飛ばし、上段でアラクネに強打! 入りましたわ!」
【アラクネ】「くっ!」
【ミランカ】「やはり、一撃では無理か。シールド量も並ではない」
【メイレン】「でも、半分以上削りましたわ!」
【ナトウ】「十分だ! 行くぜ、大地の怒りを剣に!」
【モーズ隊長】「させるか!」
 ファーケンの一撃目に浮かされていたモーズはバック転で地に足を付ける。
【ナトウ】「喰らえッ! 豪の剣ッ!」
 ナトウ必殺のダッシュ斬り。強烈な踏み込みに、ボンッと床が沈みひび割れた。
【モーズ隊長】「こ、こいつは! (アラクネ様に治癒して貰えるし、ここは体を張って忠誠心をアピールしておこうか。───などと考えていたが、こいつは死ぬ!)」
 身を挺してアラクネを庇おうとしていたモーズだが逆ステップで飛び退いた。
【アラクネ】「!」
 ナトウの強打にアラクネは床に叩きつけられた後に、天井に届きそうなほどに弾む。その目は白目をむいている。
【メイレン】「気絶! やりましたわ!」
【エンカイ】「明鏡止水・・・・・・にんっ」
 エンカイの必殺技がどのような技だったのかは、誰にも見えなかった。エンカイが背の鞘に剣を収めると同時にアラクネの首と胴は両断された。

【メイレン】「えっ、自分に拡張シールドを掛けてませんわ!」
【ミランカ】「油断しすぎだ。これは楽に済んだな」

【親衛隊】「アラクネ様が!」
【モーズ隊長】「貴様ら! よくもアラクネ様を!」
【ファーケン】「おっと! てめぇの相手はワシだ!」
【アザ】「まとめてお相手する! はっ!」
【ナトウ】「アザも忍者か? 強ぇじゃねぇか。おっと! うりゃっ!」
【親衛隊】「くそっ!」
【親衛隊】「おい、モーズどうする!」
【親衛隊】「アラクネ様がやられた今、戦う意味がないんじゃねーか?」
【親衛隊】「所詮、俺たち雇われの戦士崩れだからなぁ」
【モーズ隊長】「ああ、いい職場だったのにな。せめてアラクネ様の隠し財宝、俺たちが大切に使わせていただきます。みんな金目な物を持ってずらかるぞ!」

【ミランカ】「逃げる者は追わなくていいぞ!」
【メイレン】「神の言葉も使わせず、超人化もさせずに攻め切る。最善策にて大勝利ですわ」
【ミランカ】「ああ・・・・・・だといいのだが。儂の直感が、イヤ~な予感を感じている」
【メイレン】「さすがに首チョンパにされては何も───!?」

 アラクネの周りから湯気が沸き立つ。湯気には、切られた時を逆再生するかのように、首と胴体がつながるシーンが影絵で投影される。強大な治癒魔法が起こす急激な物質変換により付近の空気が爆発を起こした。
 煙の中から全長5メートルほどの巨大蜘蛛のような異形が姿を現す。蜘蛛の上頭部に当たる部分からアラクネの上半身───スカートに隠れているが恐らくは腰から上が生えていた。

【メイレン】「あの状態から、復活!?」
【ミランカ】「はぁ、儂のイヤな予感は当たるんだよなぁ~」
【ナトウ】「“復活”っていうと、猛犬みたいに特別にタフなやつだけの能力じゃねーのか?」
【エンカイ】「ヒーラーの技としてもあるでござるが、それとも違うでござる」
【ファーケン】「だな。復活の場合はシールド切れ時で数秒気絶している時が、実は一番防御力が強くなっていて、ほぼ無敵状態になってるんだ。じゃなきゃ、復活するまでにやられちまう」
【エンカイ】「それがなかったから、拙者の刃が易々と首を切断したのでござる」

【親衛隊】「ひいっ! あれがアラクネ様!?」
【親衛隊】「超人だ! 逃げろっ!」
【モーズ隊長】「慌てるな! 本来の超人の姿に戻っただけで暴走状態ではない! 見るのは初めてだが・・・・・・これが超人か・・・・・・」
【親衛隊】「・・・・・・蜘蛛だな。巨大蜘蛛」
【モーズ隊長】「超人は龍っぽくなると聞いたが・・・・・・」
【親衛隊】「“龍”はある時期に生まれた巨大生物の総称的に使われる。いわゆる爬虫類を思わせるような“龍”の見た目とは限らないんだ」
【モーズ隊長】「ほう、そうなのか」

【アラクネ】「・・・・・・・・・・・・きゃぁぁぁぁぁっ! 見ないで下さい! 見ないで下さい!」
 自分の体を見回した後、アラクネは頭を抱えて身を小さくした。皆に尻を向けて部屋の角にうずくまる。

【ナトウ】「・・・・・・なんだこの反応?」
【ファーケン】「あの見た目でもかわいいとは」
【エンカイ】「意図的に変身したわけでなさそうでござるな」
【アザ】「おそらく・・・・・・人の魂、超人の魂、それぞれを完全に分けて使っていたために、シールド消失時に魂に受ける衝撃で気絶したのは人の魂のみ。残っていた超人の魂と超人としての回復力とアラクネ自身の魔法力が作用して、というところだろうか」
【メイレン】「なるほど。復活を使わずに復活できた説明になりますわ」
【ミランカ】「ゾクッ!? 考察など後にしておけ! 全員、こっちに集まれ! 大至急だ!」

【アラクネ】「ええ~ん。見られてしまいました! 見られてしまいました! このおぞましい姿を見られてしまいました! 見られてしまいました!」
【モーズ隊長】「アラクネ様、大丈夫ですか? いや、首を切られた件は大丈夫みたいですね。どうしますか? おーい、アラクネ様~」
【アラクネ】「・・・・・・・・・・・・皆殺しです」
【モーズ隊長】「了解しました。何か、作戦は?」
【アラクネ】「皆殺しです。ごめんなさい」
【モーズ隊長】「はい?」
【アラクネ】「・・・・・・この姿を見た人は全員、皆殺しです!」
【モーズ隊長】「えっ?」
【アラクネ】「すぅ──────っ ゔぁぁぁぁlljhかgfjsghけあj!!!」

【メイレン】「“神の言葉”ですわ!」

【親衛隊】「ぎゃぁぁぁぁ、頭が割れ───ぼふっ!」
【親衛隊】「暴走か!?」
【モーズ隊長】「ア、アラクネ様! 俺たちまで!?」

【円の教団・魔法使い】「出番よ! みんな行きますわ!」
【円の教団・魔法使い】「風よ震え、音をかき消せ!」
【円の教団・魔法使い】「くっ、風よ震え、音をかき消せ!」
【円の教団・魔法使い】「───音波遮断壁!」
 音を遮断する魔法防御壁。逆位相に振動することにより、音を打ち消す。早い話がノイズキャンセラーだ。

【親衛隊】「ぎゃぁぁぁぁっ!」
【親衛隊】「ぶひっっっっ!」
【親衛隊】「ぐはっ!」
 魔法防御壁の外側、アラクネの側にいた親衛隊メンバーの頭が次々と爆ぜる。

【ナトウ】「あ、危ねぇ!」
【ファーケン】「ひぃ。近くにいたら、ワシらもああなっていたのかい」
【ミランカ】「ふぅ、イヤな直感はやはりこれか」
【メイレン】「アネさんが集めてくれたおかげで全員助かりましたわ」
【ナトウ】「おいおい、神の言葉って暴走状態じゃなくても出せるものなのか?」
【アザ】「稀ではあるが、コントロールを憶える超人もいるそうだ」
【ミランカ】「油断するなよ。いざの時は思い切りよくこうだ」
 耳の穴に両手の人差し指を向け、鼓膜を突き破るジェスチャーをする。
【ファーケン】「お、おう」
【ナトウ】「あちらさんも、何人かは対超人の方法を知っていたみたいだな」

【モーズ隊長】「はぁっ! はぁっ!」
【親衛隊】「ふぅ・・・・・・つぅぅ」
 アラクネ親衛隊の隊長と他数名は頭の爆発を免れる。代わりに耳から血を流していた。
【アラクネ】「自分の耳を、なんて野蛮な。でも無駄です───キュア」
【モーズ隊長】「わっ、耳が! アラクネ様の治癒?」
【親衛隊】「聞こえる! 治ってしまった!?」
【親衛隊】「アラクネ様、隠し財宝を持って逃げようとしたのは謝ります! どうかお許しを!」
【アラクネ】「・・・・・・そんなことまで、しようとしたのですか。うふふふ、でしたら遠慮はいりませんね」
【モーズ隊長】「あー! 馬鹿、余計な事を!」

【ミランカ】「キュアで耳を治癒されてしまったようだ」
【アザ】「そのようだ」
 音は遮られているが、アザと忍者は唇の動きで会話を読める。
【ファーケン】「なんでだ? 仲間も殺すつもりじゃ・・・・・・あっ、“神の言葉”を聞かせるためか! 確実に殺すために!」
【ナトウ】「頭いいな! そして、可愛い顔してなんて残忍な」
【メイレン】「困りました。定番の超人対策が封じられてしまいましたわ」
【ミランカ】「こりゃ予想以上に厄介な相手だな」
【メイレン】「どうします、アネさん?」
【ミランカ】「うーん、まるで根拠のない直感が、今が決戦の時と告げている!」
【ナトウ】「おいおい、言い方を考えてくれ」
【ファーケン】「不安しかないわい」
【ミランカ】「前衛班の皆、今が“いざの時”だ。突撃ぃぃぃぃ!」

【円の教団・前衛班】「しかたねぇ、行くぞ!」
【円の教団・前衛班】「ひぃぃ」
【エンカイ】「やれやれでござる」
【ファーケン】「できればやりたくなかったのだが」
【ナトウ】「まぁ、覚悟はしていたよ。せーの」
 ポンポンとあちらこちらから小さな破裂音。もっとも、その音を発した本人たちは、脳震盪を起こすほどの大音量を聞いた。確実に鼓膜を破るため、耳の穴に仕込んでおいた火薬を破裂させた音だった。
【アザ】「行くぞ!」

【アラクネ】「! 神の言・・・・・・いえ、まずは───シールド! そして、大地の力と魂の呼応を───拡張シールド回復! 今度は油断しません」
 突撃してくる敵に対し、まずは防御を固める。

【アザ】「拡張シールド回復! あれが復活付きのシールドだ。おそらくはシールド100パーセントを越える過回復も加わっている・・・・・・と言っても聞こえないか」
【ナトウ】「2回光った。もしかして、あれが復活のヒーラーの技か?」
【アザ】「わかってるようだな。まずは最初のシールドを破壊する!」

【アラクネ】「こ、来ないで下さい! えいっ! えいっ!」
【ナトウ】「体に慣れてねぇみたいだな」
【ファーケン】「だが厄介だな。リーチが長いし速い!」
【アザ】「振り回しているだけだが、喰らえば一打で致命傷になる」
【エンカイ】「しかも手の数が多いでござるよ」
【アラクネ】「あれ、意外と私、強い? 後ろも見えるし、手が沢山あるし!」
【アザ】「慣れさせると厄介だ。飛び込む」
【エンカイ】(いや、アザ、こうしよう)
 エンカイがぱくぱくと唇を動かす。
【アザ】(なるほど、了解だ)
 二人が唇の動きで即興の策の算段をする。
【アザ】「───我は這い寄る蛇」
【アラクネ】「! あれは神剣を持っていた剣士! させません!」
【円の教団・前衛班】「わっ」
【円の教団・前衛班】「ちょっ!」
【アザ】「むっ! くっ!」
 アラクネが捨て身の突撃。教団の戦士を何人か薙ぎ払い、アザにぶつける。
【エンカイ】「明鏡止水・・・・・・にんっ」
【アラクネ】「きゃっ!」
【エンカイ】「神剣が1本とは限らぬでござるよ」
 アザとエンカイはこそっそり剣を交換していた。
【アラクネ】「ええっ? どの人を警戒すればいいの? 神剣の形なんて知りませんんん~」
【アザ】(よしっ、これで神剣が複数あると思い込んだだろう)
【エンカイ】(ニンニン)
【ナトウ】「超人結界が途切れたぜ! 大地の怒りを剣に───!」
【ファーケン】「今だ! 獰猛なる牙よ───!」
【円の教団・前衛班】「爆発するぜ───!」
【円の教団・前衛班】「切り裂け───!」
 一斉に必殺技発動。超人の無敵結界の途切れたアラクネに集中攻撃。
【アラクネ】「・・・・・・!」
 アラクネ、シールドゼロに。気絶。

【モーズ隊長】「おい」
【親衛隊】「ああ」
【親衛隊】「退散退散」
 この隙きに、親衛隊メンバーのわずかな生き残りは脱出を図る。

【ナトウ】「なるほど。シールド切れに見えるが、無敵状態だ」
 剣でツンツン突っつくが傷は付かない。
【アザ】「うかつに近づくな!」
【ナトウ】「うわっ! いてて、復活時はこうなるのか!」
 バチッとした衝撃に弾き飛ばされ、ナトウは擦り傷だらけになる。
【エンカイ】「油断大敵でござる」

【アラクネ】「~~! もう、許しません! こ、これは使いたくありませんでしたけど・・・・・・ん~~~~~~~~~~~~~~!」
【ファーケン】「うおっ、蜘蛛の糸!?」
【円の教団・前衛班】「うわっ! 捕まった!」
【ナトウ】「こいつ、尻からなんて物を出しやがる!」
【アラクネ】「ひぃ~ん、だって蜘蛛だから、蜘蛛だから! 見ないで下さい! 見ないで下さい!」
 アラクネ、羞恥に真っ赤になりながら大回転。周囲に蜘蛛の糸を張り巡らせる。

【ミランカ】「あれは水に弱い。魔法使い!」
【円の教団・魔法使い】「水弾!」
【円の教団・前衛班】「ふぅ、助かった。水に弱いと言ってもすぐに溶けるわけじゃねぇ、捕まるなよ! って聞こえないか」
 蜘蛛の糸に捕らえられていた戦士が、もがいて抜け出す。

【ナトウ】「おっと、すまねぇ」
【ファーケン】「こいつは動きづれぇ」
 ナトウとファーケンがぶつかる。

【アラクネ】「大地の力と・・・・・・」
【ミランカ】「詠唱! 耳を治療するための広域キュアか、拡張シールド回復か! どちらも許すな!」
【円の教団・前衛班】「カマイタチ! 真空よ、詠唱を妨害しろ!」
 無詠唱の必殺技。アラクネの詠唱が途切れ、超人結界によりダメージはないがアラクネが仰け反る。

【アラクネ】「ふぅ・・・・・・さすがに色々と対策を練られているみたいですね」
【ミランカ】「超人してのアラクネの対策は暴走時さえも想定している。いくつかの想定外があったがもう詰みだ、アラクネ」
【アラクネ】「でも、もう少し・・・・・・」
【メイレン】「もう少し、時間を稼げれば・・・・・・と、つぶやきましたわ。まだ、何かを狙っているみたいですわ!」
【ミランカ】「狙うとなると・・・・・・最終手段か」
 超人の最終手段といえば誰もが知っていた。『暴走』または『神罰』である。そして超人が自らの意思でその状態に入れることは過去に例があった。

【アザ】「ならば攻め切る! 我は這い寄る蛇!」
【アラクネ】「キャッ!」
【ナトウ】「神剣の一撃が入った! 畳み掛けるぞ!」
【ファーケン】「ちょっと待て、蜘蛛の糸が邪魔で角度が悪い」
【円の教団・前衛班】「くそっ、浅かった!」
【エンカイ】「深追いは危険でござる! 無敵結界が復活したでござるよ」
【アラクネ】「シールド回復! ふぅ」
【円の教団・前衛班】「単体シールド回復は無詠唱。あれは妨害しようがない」

【ミランカ】「攻め切れなかったか」
【メイレン】「やっかいな糸ですわ」

【アラクネ】「あと少し! 近づく者は絡め取ります!」
 アラクネ、糸を手繰る。雑に張られていた蜘蛛の糸が、蜘蛛の巣にアップデート。
【アラクネ】「あっ・・・・・・懐かしいです。うふふふ、昔は得意でしたっけ」
 更には蜘蛛の巣がレース編みにアップデート。

【ナトウ】「なんだこりゃ!」
【ファーケン】「綺麗な風景になってきたぞ!」
【ナトウ】「余裕だな、おい!」
【アザ】「いや、これは綺麗なだけではない。これは攻めずらいぞ」
 紐が帯状、布状になり縦横無尽に、さながらレース編みの繭のようになる。

【アラクネ】「大地の力と魂の呼応を───」

【アザ】「魔法を使われた! 拡張シールド回復か?」
【エンカイ】「やれやれ、もう二回気絶させないといけないでござるか」

【アラクネ】「準備は整いました」
 アラクネは微笑を浮かべ、繭の前方を大きく開く。

【ミランカ】「なにやら、向こうの狙い通りなってしまったみたいだが・・・・・・儂の勘は今がチャンスと言っている! 突っ込めぇぇぇぇ!」
【アザ】「我は這い寄る蛇」
【エンカイ】「ニンッ!」
【ナトウ】「行くぜ、大地の怒りを剣に!」
【ファーケン】「獰猛なる牙よ───」

【メイレン】「アネさん・・・・・・ちょっと嫌なことを考えてしまいましたわ」
【ミランカ】「なんだ、メイレン」
【メイレン】「アネさんの勘って、シールド効果によるもの? 今はシールドをまとってませんわ」
【ミランカ】「・・・・・・はははははっ、考えたこともなかったわ。戦士がシールドなしに戦うなど、普通ないからなぁ」
【メイレン】「あー、もう祈るしかありませんわ」

【アラクネ】「さぁ、来て下さい!」
【アザ】「ハッ!」
【ファーケン】「闘犬の牙ァァァァッ!!」
【エンカイ】「明鏡止水───にんっ」
【ナトウ】「喰らえッ! 豪の剣ッ!」
【アラクネ】「きゃぁぁっ!」
 連撃。ナトウの一撃がトドメとなりアラクネが気絶する。

【アザ】「何が狙いだ? わざと受けたようだが」
【ナトウ】「・・・・・・おっと、復活の最中は近寄っちゃいけねえ」
【アザ】「むっ?」
 天井から落ちてきた瓦礫がアラクネの体をかすめる。アラクネの肌に傷が付いた。
【アザ】「無敵状態ではない?」
【エンカイ】「復活ではないということか」
【ミランカ】「何だと? じゃあ、さっき自分にかけていた魔法は一体?」
 警戒を強める中、アラクネが湯気に包まれる。煙からは小さい姿が現れた。
【メイレン】「人の姿ですわ! ということは、先程の魔法はおそらく自動キュア。人の魂が気絶から覚めたところを見計らって、超人の魂を気絶させ、人の形に戻ったと・・・・・・でも、それにどんな策が? 読めませんわ!」

【アラクネ】「ふぅ・・・・・・少しだけシールド。お待たせしました。これで準備完了です」
 アラクネは自分の体を見回し微笑んだ。アラクネの狙いはわからない。緊張感のクライマックスの中、アラクネはレースの繭の中に寝転んだ。
【アラクネ】「それではお願いします。できれば痛くないように」
【アザ】「・・・・・・・・・・・・はっ?」
【アラクネ】「できれば気絶させて、その間に。できれば“魂に雷撃を”でしたっけ? 教会の魔法が使える方がいると嬉しいのですが」
【ファーケン】「んっ、なんだ?」
【ナトウ】「どうした?」
【アラクネ】「あ、皆さん、耳が聞こえないのでしたね。大地の力と魂の呼応を───キュア」
【ファーケン】「げっ、聴力が!」
【ナトウ】「神の言葉───って、雰囲気じゃねーな。何がどうなった」

【ミランカ】「聖母アラクネ様は、トドメをご所望だ」
【メイレン】「本気ですわ。ほらHP計、気絶しやすいようにわずかなシールドしか残していませんわ」

【アラクネ】「さあ、気が変わらないうちにお願いします」
【アザ】「・・・・・・ならば」

 アラクネ討伐は完了した。



◆33-3 顛末

 翌朝。アラクネ城。

【円の教団】「毒なんか盛られてないよな?」
【円の教団】「大丈夫だろ。おお、いいものを食べてるな。さすがは一国の城のキッチンだ」
【円の教団】「いい酒、あるじゃん。夜のうちに漁れば良かった」
【円の教団】「何本か貰って行こうぜ」

 朝食の準備中の円の教団・団員たち。

 アラクネの死体は、サバリア国旗により覆われていた。それを気にした様子もなく、近くで朝食を食べているこの作戦の主力メンバーたち。

【アザ】「アラクネは何を考えていたんだろうな」
【メイレン】「もっと強欲な方だと思っていましたわ」
【ミランカ】「まあ長く生きてれば死にたくもなるものだよ」
【メイレン】「アネさん、大雑把・・・・・・そういえばアネさんって何歳?」
【ミランカ】「ははははっ」

 真相はわからない。

 ▼

 さらに翌日。

【サバリア国王】「城を奪還しろ!」
【衛兵】「大変だ! アラクネ様が死んでいる!」
【衛兵】「おのれ、円の教団!」

【ミランカ】「うわー、強いぞ! 撤退だー! 国を持つ悲願よまたいつの日か。無念!」
【メイレン】「アネさん、演技が酷いですわ」

 小芝居を挟み、翌日にはアラクネ城から脱出。
 こうして、アラクネ討伐戦は完了した。



◆33-4 後日談

【国民】「うわーん、アラクネ様!」
【国民】「ありがとうございました、アラクネ様!」
【サバリア国王】「聖母アラクネの慈母の遺志を受け継ぎ、子供たちが健やかに成長できる国を目指し尽力して行くことを誓おう」

 数日後、国を挙げてのアラクネの葬儀が行われる。

【ファーケン】「あの国王、アラクネを憎んでいたんじゃねーのか? こんな豪華な葬儀をするとはのぉ」
【メイレン】「ちゃっかりアラクネの募金ビジネスをいただいてしまったのですわ」
【ナトウ】「ああ? そういう狙いか。もしかして俺たち、上手いこと利用されたのか?」
【メイレン】「それだけの報酬は貰ってますわ。でも、これで円の教団は、アラクネ信者にとって怨敵。長居は無用」
【ナトウ】「早々にずらかろうぜ」
【メイレン】「さぁ、次の仕事が待っていますわ」
【ファーケン】「意外と人使いが荒いのぉ。円の教団は」

 ▼

 アラクネの国葬より一ヶ月が過ぎる。
 ロンド街。ドンドン酒場。

【女】「いらっしゃーい。おや、あんたらは!」
【戦士】「よう、ねーちゃん」
【戦士】「近くで仕事があったからよ」

 少し前の、王都アラクネ市にライネを迎えに来た女と、酒場で出会った酔っぱらいの二人組の男たちだ。

【戦士】「で、嬢ちゃんはどうなったんだい?」
【戦士】「アラクネ様が亡くなって、泣いたんじゃないか」
【女】「そりゃもう大泣きだったよ。でもその後に大奮起。私が次のアラクネ様になるって、結局、魔法学校に入ったんだ。あっ、あんたらに貰ったお金なんだけど、結局、裏口入学みたいなことに使わせてもらったんだ。悪かったかね」
【戦士】「そりゃ構わねぇ」
【戦士】「嬢ちゃん、いくつくらいだったか? あの歳で戦士職に転向って難しいだろ?」
 通常は8歳の頃に適性検査があり戦士になるものが選別される。
【女】「それがね、結構、稀な才能を持っているって話でさ。そのこともあって金がかかったものの入学の許可が出たんだ」
【戦士】「ほぉ、そいつは良かった」

 ▼

 王都アラクネ市にある魔法学校。

【ライネ】「シールド回復!」
【先生】「───はい、よく出来ました」
【ライネ】「ふぅ・・・・・・やった!」
【生徒】「とうとうやっちゃった!」
【生徒】「一ヶ月で無詠唱魔法だって」
【生徒】「“聖母ちゃん”ってあの娘でしょ? 将来の夢はアラクネ様と言っていた変な娘」
【イザベラ】「ほほほほほっ、おめでとう、ライネ。さすがは私が見込んだ娘。私も負けてられないわ!」
【生徒】「えっ、いじめっ子のイザベラが褒めてる。ちょっと前まで、聖母ちゃんのこといじめてなかったっけ?」
【生徒】「それがね、全然へこたれないで頑張る聖母ちゃんに改心させられたらしいよ」
【生徒】「あのイザベラが? 聖母ちゃん、マジ聖母か!」
【先生】「ライネさん合格です。残り時間は自由にして下さい」
【ライネ】「それじゃ、走ってきます!」
【生徒】「それじゃ、ってなんで!」
【生徒】「あははは、やっぱり変な娘」
【先生】「ヒーラーでも戦場に出たら体力勝負ですよ。息を乱していたら集中できません。それにしても、頑張る娘ですね」

【ライネ】「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
 魔法学校のグラウンドをひたむきに走るライネだった。

 ▼

 山中。かつて盗賊が子どもたちを隠していた洞窟の付近。

【元・親衛隊】「見つけたぞ! たんまりと隠してやがった!」
【モーズ】「ほらな。回収した額が、あの盗賊のボスに払った報酬額にくらべて全然少なかったんだ」
【元・親衛隊】「ふぅ、やっと見つかったか」
【元・親衛隊】「見つからなかったらどうしようかと思ったよ」

 聖母アラクネ親衛隊メンバーの残党、15人ほど。あちこちに掘られた穴が一ヶ月以上の探索の苦労を物語っていた。

【モーズ】「これを元手にレキノ市で荒稼ぎしようぜ・・・・・・わっ」
【元・親衛隊】「えっ」
【元・親衛隊】「ひっ!」

 全員が威圧感を覚え空を見上げる。

【大天使アノン】『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 大天使アノンはモーズたちを一瞥し、まるで興味がなさそうな様子で王都アラクネ市に向かい飛んでいった。

【元・親衛隊】「ち、ちびった」
【元・親衛隊】「あ、あれ、だだだだ大天使だよな? 大天使アノン!」
【モーズ】「大天使アノンが現れたということは・・・・・・」
 俺も少しちびったぜと小声でつぶやくモーズだった。

 ▼

 そして少し後に王都アラクネ市に青い光の柱が立った。

 超人不在の場所に新しい超人が選ばれる。大天使アノンは欲望の強い者を、超人として選ぶ。選ばれたのは───

【ライネ】「・・・・・・天使・・・・・・大天使だぁ」

【大天使アノン】『支配せよ』

【ライネ】「・・・・・・はい」

 ライネは大天使アノンの言葉を『アラクネ様のようになれ』と受け取り力強い返事をした。




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≪ 第32章 帖子    
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