ささやく絵画(01)

―― 察してプリーズなお話 ――

 

Entyも色々あって大変そうですが、我々も座して倒れるわけにもいきません。
ひとまず、やれることはやっていこうと思います。

 

―― 師走から来年に関して ――
・コミケ参加予定です。
・コミケ前に色々と試してみたいことがありますので、それとなく見守っていただければ……

 

ということで、始めます。

 

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【ささやく絵画 01】
 

「初めまして」
 近づいてくる若い女性を笑顔で出迎えつつ、ケンゾー(Kenzo)は頭の中のリストから候補を選ぶ。
 初めて見る顔で、出入り業者の人間とも思えない。
 取り立てて目立つのは、その胸元にあるクラシカルなカメラで――
「もしや……と思いますが。マシューズ(Matthews)さんですか?」
「はい、そうです。お約束をした、シャーロット(Charlotte)マシューズです」
 ――どうして嫌な予測は、こうも当たるものなのか。
「あ、ぁぁ……これはこれは! ようこそ、ドレ美術館へ」
 少し首を傾げた彼女を前に、歓迎の言葉を口にしながら深く長めな礼をする。
 実際には、あまり歓迎してないことを表情に出してしまったであろう自分を立て直す意味で。
「本日は、その……どういったご用件で?」
「??? 本日はフェイス・ザ・トゥルース――FTT(Face the truth)社より『件のお話』をうかがうために――」
 ――やはり、そういうことか。
 ただでさえ面倒な案件なのに、下っ端の自分が上手く方向修正をしないといけなくなった。
 注意すべきは、決めつけや思い込みで事実や結論だけを告げてはならない。
 なんにしても、非はこちらにあるのだから。
「まだ、おいでになったばかりですよね?
 もしよろしければ私が順路に沿ってご案内させていたきたいと思いますが……」
「ありがとうございます。でも、実は昨日のうちに一通り拝見しましたので」
「えっ?」
「通路も広くて圧迫感もなく、展示物同士にもゆとりがあり、落ち着いて観賞ができました。
 最近足を運んだ美術館の中でも、指折りのお気に入りとなりました」
 彼女はニッコリと笑ったまま、差し出した名刺をケンゾーが受け取るまで待っていた。
「お褒めの言葉、とても光栄です。ミス・マシューズ」
「シャーロットで構いません」
 キッパリとした物言いでメガネを正す彼女に、やりにくさを覚える。
 こざっぱりとしたパンツルックのスーツに、必要最低限な化粧。
 首から下げたカメラと脇に抱えたノートが、『仕事最優先!』を物語っている。
 偏見かもしれないが、『女性なら、せめて名刺ぐらいもう少し飾り気のあっても良いのでは?』と思ってしまう。
「ちなみに、新聞記者としての活動は……どれぐらいですか?」
「…………」
「失礼いたしました。質問をされる側は、美術館の人間である私の方でしたね」
「そうですか? 取材する側も、よく質問をされますので」
 ――真正面から返さずに、笑って済ませてほしいかった。
 嫌味を口にしたつもりではない。
 曇った彼女の表情を少しでも晴らしたかっただけの話だ。
 だいたい、初めて会ったばかりで話題のとっかかりもないのだから――
「今年で2年目です。今日、初めてカメラを持って取材に出ることを許されました」
「そうなのですか! では、私があなたにとって初めてのインタビューの相手ということに」


「いいえ、違います。いつもはカメラマンを同行させるのですが、今日はちょうど出払っておりまして」
「さ、左様ですか……」
「はい。ですので撮影という意味では、初めてになります。……もちろんご安心ください。
 カメラの扱いに関しては趣味で利用していたこともあり、それなりの腕前だと自負しております」
「…………」
「お疑いですか? なんでしたら、この場で1枚――」
「あぁ、ではどのような……と! ……んんっ、失礼いたしました。
 エントランスとはいえ、一般の皆様に誤解される可能性がありますので……後日、お願いします」
「……『後日』?」
 シャッターボタンにかけた指を剥がしつつ、彼女が取り繕いの笑みを浮かべる。
 ――あぁ、クソっ!
 言葉運びを間違えた自分を叩きのめしたくなるが、それはぐっと堪えて。
 雑談(?)も終えたところで、本題に入ろう。
「実は、FTT――御社へと、朝一で連絡をさせていただたいた……のですが……」
「???」
 さらに首を傾げる姿を眺めつつ、『悟ってくれ』と念じる。
 ……と、急に霧が晴れたような表情を見せ、
「それは、インタビューの件で……ですね?」と、理解を示してくれた。
「は、はい」
「大変失礼いたしました。本日、私は出社せずに直接こちらへ来てしまったのもので」
「あぁ、そういうことでしたか……道理で」
 この場は、彼女に合わせて自分も頷くのが得策。
 そしてこのまま、お引き取り願えば――
「それでは、何時でしたらご都合がよろしいでしょうか?」
 ――この流れで、その質問!?
 聞き流しはせず、ツッコミまで入れたのに、もう忘れたというのか?
 ……いや、これはわざとに違いあるまい。
「その……本日ではなく『後日』あらためて……お願いしたく――」
「……分かりました」
「ご足労いただいたのに、申し訳ありません。
 お詫びといっては何ですが、こちら当館併設のカフェテラスで利用可能なチケットで――」
「いえ、それには及びません。社に再確認の電話を入れずに伺った私のミスですので」
 こちらの申し出を辞退する彼女が、慌てて1歩下がろうとする。
 が、それはまったく持ってお勧めできない行為だった。
「失礼、ミス・マシューズ」

>>>つづく
 

 




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