連載小説「神幻闘姫ブリリアントセイバー」第1話

『神幻闘姫ブリリアントセイバー』

第1話 「敗北」

 

「全く、本当にきりがないですわっ」

 

  腰に届く程の黄金色の髪を踊らせながら少女は舞っていた。

  青と白で明暗の分かれた縞模様の襟に、眩しい黄色のりボン。ひらひらのレースと二本のラインが入った短めのプリーツスカート。

  一見、セーラー服のようにも見えるが、露出度は高く腹部や太ももなど完全には隠しきれてはいなかった。

  そのせいもあってか彼女が舞う度に肉付きの良い臍部や太ももがあらわとなる。

 決してスレンダーとは言えないが、そのむっちりとした肉付きは見る人が見れば欲情を誘う魅力的なプロポーションをしていた。

  両手には純白のグローブを身につけ、右手には愛用のステッキ。脚も純白のニーソックスに包みいかにも正義のヒロインといった煌びやかな姿をしていた。

  彼女こそ世間を席巻する正義のヒロイン神幻闘姫ブリリアントセイバー。

  恐怖で世界を支配しようとする悪の組織『ブーリールミア』と日夜戦い続ける彼女こそ、恐怖に震える大衆の最後の希望だった。

 

  ブリリアントセイバーが駆けるのは飾り気のない一本の廊下。

  鉄製の壁で窓一つない味気のない廊下だ。しかし、逆にそれが不気味さを増長している。

 ブリリアントセイバーの潜入先は一般人では入ることのできない地下三十メートルの施設。

  背後には頽れる無数の戦闘員。これら全てを正義のヒロイン、ブリリアントセイバーは薙ぎ倒していた。

  圧倒的な力を証明してきた彼女ではあるが、表情に油断は感じられない。凛と引き締まった鋭い瞳は廊下の先を射抜いていた。

  それを遮るように立ち塞がる戦闘員。目や鼻、口にだけ穴の開いた全身タイツ。

  有象無象の取るに足らない存在ではあるが、それはブリリアントセイバーだからこそ。彼ら全員が改造人間であり、一見素手であるにも関わらずその一人ひとりが一部隊に匹敵するほどの力を持っているのだ。

  ブリリアントセイバーは隙間を縫うように跳びかかってくる戦闘員の攻撃を躱す。その所作に迷いはなく、無駄のない動作は踊っているようにも映る。

  しかし、かわすだけではない。躱しざまにステッキで彼らの身体を叩いていく。叩くと言っても軽く当てる程度で、それだけでは戦闘員へのダメージは皆無に近い。

  しかし、これこそがブリリアントセイバー唯一であり必殺の攻撃だった。

  一見逃げるように突き進んでいくブリリアントセイバーを戦闘員は追いかけようとする。が、その一歩が踏み込まれることはない。次の瞬間、戦闘員たちは続けざまに壁へ吹き飛ばされていく。

  相当の衝撃だったのかそのまま頭を垂れピクリともしなくなる。そんな彼らに一瞥をくれるでもなくブリリアントセイバーは先へと進んでいった。

  蝶のように舞い蜂のように刺す。その言葉に相応しくブリリアントセイバーは戦闘員共を躱し吹き飛ばしていった。その数は百や二百では済まない。

  通路狭しと積み上げられていく戦闘員の山。それを作り出した正義のヒロインは一時間以上に渡る戦闘の末、ようやく最奥へと足を踏み入れた。

 

  耳を劈くほどの轟音を上げ吹き飛ばされる鉄扉。ほんの一撃で坦々たる面影を失っていた。巻き添えで破壊された壁も無残と言う他なかった。戦闘員が束になってもビクともしない牢固な壁が粉々になっていた。

  砂煙の向こうから悠然と歩みを進める影。こんなことができるのは後にも先にもあの正義のヒロインだけだろう。

 

 「観念しなさい。幹部アンシストンっ!」

 

  ブリリアントセイバーの鋭い視線の先には革張りの椅子に腰をかけた白衣の男。

  初老を迎えメガネをかけた禿頭のいかにも博士という愛称が似合いそうな男だ。

  ゆっくりと椅子を回転させ肘置きに肘をつき、手の甲で頭を支えながら据わった瞳で正義のヒロインへ視線を送る。

 

 「まったく、派手に散らかしおって」

 

  無気力に一瞥し大きく溜息をつく。

  ブリリアントセイバーはこれまで一人でブーリールミアの悪行をことごとく潰してきた。悪の組織ブーリールミアにとってこれ以上の目の上のたん瘤は存在しない。

  そんな要注意人物を目の前にしながら、アンシストンの表情に戸惑いや動揺はなかった。

  フラスコ内の緑色の怪しげな液体を口に流し込み、大きなため息をつく。

 

 「これまでの研究の成果を……。すべてぱぁじゃよまったく」

 

  先ほどの衝撃でガラスケースが割れ中を満たしていた黄色の液体が床を濡らし、ミミズが幾つも寄り集まったような触手が蠢いていた。

  それを見てブリリアントセイバーの表情が嫌悪に歪む。このミミズの塊の使い道など考えたくもなかった。

 

 「そんなことを気にしてる場合ですかっ! 貴方の命運もここまでですわっ! アンシストンっ!」

 

  威風堂々。嫌でも気を引き締めさせるような溌剌とした声。

  それをやかましいとばかりに小指で耳をかっぽじりようやくアンシストンはブリリアントセイバーへ視線を送った。

  瞳孔が髑髏の不気味な瞳。それに気圧されまいと、ブリリアントセイバーは堂々と真っ直ぐアンシストンを見据えた。

 

 「大した自信じゃのうブリリアントセイバー。これが罠とは思わなんだか?」

 

  それを予測できないほどブリリアントセイバーが愚かであれば、ここまでブーリールミアを苦しめることはなかっただろう。

  施設内の狡猾なトラップに無数の戦闘員。辺境の支部にしては用意周到であることはブリリアントセイバーもひしひしと感じていた。

  それでも踵を返すことをしなかったのは、彼女の正義の心があってこそ。

  少しでも早く平和と取り戻すために無茶をするのはブリリアントセイバーの常であり、だからこそ民衆の心を掴んで離さなかった。

 

 「だとしたらなんですの? 現にピンチを迎えているのは貴方ですわっ」

 

  そして勝利をする。だからこそブリリアントセイバーへの期待は多大なもので、彼女もそれを裏切ることはしない。

  傍から見ればブリリアントセイバーの勝利は確実に見えた。アンシストンはひょろひょろの身体付きで、誰がどう見ても非戦闘員のそれだったからだ。

  追い詰められているのはアンシストンであることは誰の目にも明らか。だというのに彼の表情に緊迫したものはなく、それどころか何かを企んでいるかのようにニヤリと笑みを浮かべ「それはどうじゃろな」と返事をする。

 

  その次の瞬間だった。ブリリアントセイバーは条件反射で前に飛び出していた。

  同時に部屋に再度響き渡る轟音。先ほどまでブリリアントセイバーが立っていた床は粉々に砕けていた。

 

 「流石、と言うべきか」

 

  ブリリアントセイバーの背後には溶岩のように肌の爛れた化け物の姿。この化け物が背後に忍び寄り拳を振り下ろしたのだ。

 粉々に砕けた床。抉れた穴がその破壊力を証明していた。

 その化け物はブリリアントセイバーの五倍近くの身の丈をしている。いくらブリリアントセイバーといえど直撃すればただでは済まなかっただろう。

  僅かな気配と気流の乱れを感じ取っての回避。ブリリアントセイバーが百戦錬磨だったからこそできる所業だった。

 

 「こいつが貴方の切り札ってことですわねっ」

 

  アンシストンの余裕はこの化け物がいたからだ。それを確信したブリリアントセイバーは化け物に相対し、ステッキの先を化け物へと向ける。

  化け物もまた敵意を感じ取ったのだろう。ブリリアントセイバーの身長ほどもある拳を振り上げ、再び叩き落とす。

  それを最小限のステップで躱すブリリアントセイバー。当然躱しざまにステッキで拳に触れることを忘れはしない。

 

 (遅いですわっ! この程度避けられないとでもっ!)

 

  そしてほんの少しの間を置いて衝撃が化け物の拳を襲う。握られていた拳が崩れ、指が非ぬ方へとねじ曲がる。

  それで勝負がついたとは思ってはいなかったが、間を置かず逆の拳を振り上げる化け物にブリリアントセイバーも驚きを隠すことができない。

  再び振り下ろされる拳を寸でのところで避け、再び破壊を誘う必殺のステッキを拳に叩きつける。

  拳ごと吹き飛ばされる腕。化け物の両の拳はほんの数秒の間に破壊されていた。

  しかし、それで終わることはなかった。体裁さえまともに繕えていない拳を、化け物は再び振り上げたのだ。

 

「っ!?」

 

  その動きに躊躇いはない。自愛も何もないブリリアントセイバーを狙った打撃。

  自棄にも思える攻撃はブリリアントセイバーも予測することはできなかった。

  ステッキを振ることはせず、ステップで化け物との距離を置く。

 

 「まさか、痛みを感じませんのっ!?」

 

  ブリリアントセイバーの言葉に宿る僅かな動揺。

  困惑の表情にアンシストンはさらに厭味ったらしく口角を吊り上げる。

 

 「儂の作品がその程度だと? だとしたら甘いのう」

 

  挑発するアンシストンへ怒りの視線を向ける。

  敵とはいえ、化け物とはいえ、人道を外れた改造に同情せざるをえなかった。

  その諸悪の根源アンシストンこそ倒すべき相手。見逃すことはできない。

  しかし、それを化け物が許さない。視線を逸らしたほんの僅かの間にブリリアントセイバーとの距離をつめ、再び拳を振り下ろす。

  それを苦もせず避けるブリリアントセイバー。しかし、視線を戻した先の光景は予想だにしなかったものだった。

 

 「なっ!」

 

  先ほど化け物の拳は確実に破壊したはずだ。だというのにその痕跡は見られない。恢復した両の拳をブリリアントセイバーに目掛けて叩き落とす。

 

 「……っ!! なんて非道な仕打ちをっ!!」

 

  回復能力を備えアンシストンの命令に逆らえないよう創りだされたのだろう。

  ブリリアントセイバーは下唇を噛み、化け物の悲劇の運命を嘆いた。

 

 「それなら、終わらせて差し上げますわ。わたくしの全身全霊を持ってっ!」

 

  今度はブリリアントセイバーが身を乗り出す。その動きはまさに軽快。

  化け物の拳を流れるように躱し、ステッキで化け物の身体を叩きつける。

  それ自体は大した攻撃力を持ってはいないが、程なくして襲いくる超振動こそブリリアントセイバー必殺の攻撃だ。

  先ほどとは違って複数箇所を殴っての能力発動。

  ズズズッと鈍い振動音を上げ化け物の身体は内部から爆ぜた。

  見た目にこそ変化はないものの凄まじい衝撃に化け物は口から血を吐き、地鳴りを上げその巨体を地面に叩きつけた。

 

 「……今度は貴方の番です。アンシストンっ!」

 

  アンシストンを睨みつけ威圧するブリリアントセイバー。

  勝負が決したのは誰の目にも明らかだったが、ブリリアントセイバーには一つの懸念があった。

 

 (……少し、張り切りすぎてしまったかしら)

 

  能力を使うのには体力を消費する。

  ブーリールミアアジトへの潜入、戦闘。そしてこの化け物との闘諍にブリリアントセイバーはかつてないほどの疲弊に襲われていた。

  膝が笑いステッキを握る手にいつものように力が入らない。

  しかしそれをおくびに出すこともせずブリリアントセイバーは凛とした表情でアンシストンを睨みつける。

  対して不敵な笑みを浮かべ続けるアンシストン。

  老獪さを感じさせるその笑みは生理的に受け付けられない。加えて未だ余裕を感じさせる表情にブリリアントセイバーも苛立ちが込み上げてくる。

  こいつの調子に合わせる必要はない。この男を拿捕すれば今回の目的は達成されるのだから。

  決着を急ぎブリリアントセイバーはステッキを握る手に力を込める。ここが正念場。最後の争闘に決着をつけるべく一歩を踏み出した瞬間だった。

  不意に投げかけられた言葉にブリリアントセイバーはつい足を止めてしまう。

 

 「この先には儂の研究室があってなーー」

 

  アンシストンの指差す先には無造作に本が並べられた本棚。そして合間を縫うように座する鉄扉。

  そこを注視してブリリアントセイバーは違和感を覚えた。それを確かめるように部屋全体へ視線を送る。

  これまでブリリアントセイバーが暴れに暴れたこともあってか、入り口は瓦礫の山。その付近もひび割れし、相当のダメージが伺える。

  しかし、それがあるところを境になくなっているのだ。不自然にひび割れが途切れている。まるでそこに境界線でもあるかのように。

 

 「ーー特別に施工しておいて良かったわい」

 

  背筋に悪寒が走る。得体のしれない不安がブリリアントセイバーを襲っていた。

 

 「それが、どうしたというのですかっ」

 

  不安を押し殺すように声を張り上げる。凛とした表情に代わりはない。しかし今度はそれに僅かな不安が混じっているのをアンシストンは見逃していなかった。

 

 「神幻闘姫ブリリアントセイバーの力の源はホーリーブリリアント。その力に儂らもほとほと苦しめられたのう」

 

  勿体つけるような言い草。時間に比例して増していく不安感にブリリアントセイバーは苛立ちを隠すことができなくなっていた。

 

 「だからっ! それがなんだと言うのですっ! 貴方の命運は尽きましたわっ!」

 

  ブリリアントセイバーの疾呼を無視して、くっくっくと笑みを浮かべるアンシストン。

 

 「ここまで言ってわからんか? 存外ブリリアントセイバーも若い若い」

 

  顔を顰めるブリリアントセイバーを尻目にアンシストンは続ける。

 

 「吟味させてもらったよ。その力。おかげでこうして逃げ回らずにすんどる」

 

  不安と焦りがブリリアントセイバーから平常心を奪っていた。背後に忍び寄る影に気づくことができなかった。

 

 「好きに暴れるが良い。お前の力ではもはや傷一つつけられんよ」

 

  アンシストンは研究の成果をすでに反映させていた。彼にとって一番重要である研究室はもちろん、その成果である兵器にも。

  ブリリアントセイバーの力の源であるホーリーブリリアントのエネルギー変換。破壊の力を無効化し、熱として放出しているのだ。

  事実研究室には一つの傷も入っていない。そして、倒したはずであるあの化け物もまた、その成果の一つである。

  気づいた時には遅かった。もはやステップで避けられるほどの距離ではなく、覆いかぶさってくる化け物にブリリアントセイバーは押しつぶされてしまう。

 

 「な、んでっ」

 

  ステッキを押し付け化け物を吹き飛ばそうとする。衝撃は化け物に確実なダメージを与えるものの、自重によってブリリアントセイバーの自由が取り戻されることはなかった。

 

 「もちろんそれを其奴に備え付けることもできた。が、儂はそうはしなかった。理由は分かるかね?」

 

  アンシストンの問いかけがブリリアントセイバーに届くことはない。届いたとしてもブリリアントセイバーに返事をする余裕はなかっただろう。

  それでもアンシストンは誇るように言葉を並べる。

 

 「さらに昇華させたのじゃよ。ホーリーブリリアントを吸収し再生できるように。そして余分にその力を消費させるために」

 

  これまでの敵であればブリリアントセイバーが疲弊することはなかっただろう。

  しかし無数の戦闘員、改造を施された化け物によってブリリアントセイバーの力は底を尽きかけようとしていた。

  これほどまでの大規模な戦闘をしたことがないこと。その経験不足がブリリアントセイバーの足枷となっていたのだ。

  何度もなんども能力を行使する。突然の束縛にパニックになっていたのだ。力が奪われていく。

 

 「とはいえこれではお前を倒すことはできんからのう。とりあえず、このまま意識を失ってもらうぞい」

 

  化け物との密着で呼吸もままならない。酸素濃度が低くなっていく。

  こうなってしまえばブリリアントセイバーに為す術はなく、ものの数分で力は底を尽き意識も遠のいていく。

  アンシストンは確実にブリリアントセイバーの意識がなくなるのを確認した後、化け物にブリリアントセイバーを研究室へ運ぶよう指示を送るのだった。

 




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