連載小説「ワールドヒーローズオンライン」第1話

『ワールドヒーローズオンライン』

第1話 「ログイン」

 

 ねっとり纏わりつく湿気に嫌気がさしてしまいそうな七月の中旬。ある一件の家屋にインターホンが鳴り響いた。

 「おっ! きたきたきた! きましたね~っ!」

  それまで気だるそうに団扇を扇ぎながらソファーに腰を下ろしていた少女は、意気揚々と玄関へ向かっていく。

  その足取りはとても年頃の少女とは思えないほど、落ち着きのないものだった。

 「郵便でーす」

  扉の向こうから聞こえる男性の声。のぞきあなでそれを確認すらもせず、不用心に少女は扉を開いた。

  ムワッとした空気が少女を襲う。その先には汗をびっしょりとかいて荷物を手に持つ郵便配達のお兄さんが立っていた。

 「東雲しののめ……咲さきさん、ですか」

  確認をしながら郵便配達のお兄さんは一歩たじろいだ。

  その理由は咲の姿。胸元まで露出したワンピースでおそらく下着はつけていないのだろう。少しかがめばその可愛らしい乳頭をのぞかせてしまいそうなほど、咲はラフな服装をしていたからだ。

  そうでなくても服の上からぽっちが浮き上がっているのだ。お兄さんも視線のやりばに困ってしまう。

  それさえなければ活発で明るそうな可愛らしい少女だ。ぱっちりと見開いた瞳に整った顔立ち。肩に届く程の髪はドアからの隙間風で靡くほど細い髪質。そしてやんわりとやけた小麦色の肌。

  彼女を知らない人でもスポーツでもしているのだろうな、と想像してしまうような真っ直ぐな少女だ。

  サインをして荷物を受け取る。ずっしりとした重みの腕に抱えるほどの大きな荷物だ。

  愛想よく手を振りながらドアをしめ、軽い足取りで居間へと向かう。先ほどまでの気だるさが嘘のように、にこにこ笑みを浮かべながら梱包を解いていく。

  中に入っていたのは顔まで覆うほどの重々しい機械でできたヘルメット。そのヘルメットとパソコンを繋ぐUSBケーブル。そして、最後に『ワールドヒーローズオンライン』と表紙に書かれた分厚い本だった。

 『ワールドヒーローズオンライン』とは世界初の仮想現実大規模多人数オンライン、略してVRMMOだ。

  現実世界ではなくネット内に展開された仮想現実空間内で、まるで自分が体験しているかのように遊ぶことのできる新感覚のゲームだ。

  今までにない新技術ということもあり、その話題でニュースももちきりだ。

  しかし、誰もが気軽にできるかというとそういうわけでもない。プレイするためには専用の機器、つい先ほど咲が取り出したヘルメットだが、それが必要となる。

  始まって間もない現状ではその数にも限りがあり、希望者が全員プレイすることができず抽選で選ばれし者だけがプレイできる今一番の人気を誇るゲームがこれだ。

  この少女、咲も抽選に当たった幸運の持ち主だった。しかし、本人は乗り気ではあるが咲は生粋のゲーマーというわけではなかった。どちらかと言えばその容姿通りスポーツが好きなアウトドア系の女の子だ。

  それがここまで楽しみにしているのは彼女の性格が影響していた。新しいものには目がないミーハーな気質。しかも限られた者だけができるという希少度がさらに咲の嗜好をくすぐったからだ。

  うなだれるような暑さも忘れて、説明書である厚い本をぱらぱらとめくっていくが……。ほんの数秒で咲は説明書を閉じた。

 「うん、あたしってばあれなんだよね。やりながら覚えるタイプだからねっ」

  読むのが面倒だというのを遠回しに、自分に言い聞かせるように言いながらプレイするための機器をセットしていく。

  公式のホームページを開き予め登録しておいたアカウントでログインをする。パソコンの画面には『playing』の文字が浮かんでいるだけで、特に変化はない。専用のヘルメットがあって、初めてプレイすることができるのだ。

  ドキドキを抑えることができない。新しいことをするときはいつもこうだ。未知の領域に踏み込んでいく感覚に、咲は笑みをこぼさずにはいられなかった。

  ヘルメットを被り、ソファに身を預ける。プレイ開始だ。

 

  一瞬意識が遠のいた次の瞬間、咲は先ほどまでいた部屋とはまったく別の空間にたたずんでいた。

  二階や三階の高さではすまない突き抜けの丸天井。ただ高いだけではなく、壁にも天井には西洋を感じさせる装飾がされていた。薄暗さがまた雰囲気を醸し出している。

 「うわぁ、ホントに仮想現実って奴なの? 全然現実と変わんないじゃんっ」

  感触を確かめるように手を握ったり開いたりしていると、ふと目の前に両開きの扉があることに気づく。

  気が付かなかったのは単純にこの扉が大きすぎたからだ。普段の生活ではお目にかかれない光景。スケールの大きさに呆れながらもさらにテンションを上がるのを感じる。

  扉の前までいくと自然に扉が開き、咲は自然とその先に歩みを進めていた。

  そこには一人の女性と、その女性を囲むように長テーブルが置かれていた。

 (うわ、綺麗な人っ)

  咲が感じたようにその女性は同性から見ても魅力的な人だった。腰まで届くほどの青みがかった長髪。モデルのように整った顔立ちに、ドレスのようなコスチュームを身につけている。

  そのファンタジーっぽさを色濃く醸しだす女性に、咲は改めてゲームの世界に来たのだと実感するのだった。

 (ゲームの入り口、そこにいるってことはこの人……)

  まじまじと見つめる咲に気づいたのか、椅子に腰をかけた女性はにっこりと優しい笑みを浮かべる。

 (受付嬢だねっ! ゲームの顔! 男の人にちやほやされるっていう!)

  その知識が正しいかどうかはともかく、咲の興奮を知ってか知らずか女性の方から声をかけてきた。

 「はじめまして。案内人をしております、リタと申します。よろしくお願いします」

  透き通った落ち着いた声に、咲は慌てて「よろしくお願いしますっ」と返事をする。

 「それではゲームをスタートする前にいくつかご質問を。まずはプレイヤー名を決めてください」

 (あー、あれか。ハンドルネームってやつだね。……って特に考えてなかったし、本名でいっか)

 「咲でお願いします」

 「では咲様。プレイするにあたって、一つだけ決めなければならないことがあります。種族です。いかがいたしましょう」

  リタの言葉を聞いて咲の視線が宙に浮かぶ。そういえば説明書のはじめの方にそんなことが書かれていたような気がする。気にも留めてなかったが。

 「え、っと、種族ってなにがあるんでしたっけ?」

  ゲームをプレイするにあたって基本的な情報だ。そんな初心者丸出しの質問にも嫌な顔ひとつせずリタは答える。

 「エルフ、ドワーフ、ノーム、オーク、アンデットの五種です」

 (やばい、なんか初めて聞いた単語ばっかりだ……)

  途方に暮れている咲をみかねてか、リタは一種づつその種族の特性の説明を始めてくれた。その説明によると、それぞれの特徴を挙げていくと……。

 

  エルフ

  :体力、腕力等、近接戦闘には弱いが、魔法を使った中遠距離での戦闘が得意。

  ドワーフ

  :武器の作成、アイテムの精製を得意とした種族。戦闘面では攻撃力では劣るものの、強靭な体力、防御力を兼ね備えている。

  ノーム

  :妖精を従える種族。体力が低く攻撃力もないが、妖精の種類によっては味方や敵に特殊効果を付与することができる。

  オーク

  :向き不向きがあるが様々な武器を使用することができる。戦闘面に関しては体力、攻撃力、防御力全てがバランスが整っており、純粋な火力では一番脅威になるであろう種族。

  アンデット

  :エルフとは異なる闇魔法を使うことができる。体力は低めではあるが、回復力が非常に高い。戦闘箇所によってはゾンビや死体を操ることができ、全種族で唯一、一対多数をすることができる。

 

 「ふむむ、どうしようかな」

  説明を聞いた良いものの、それでもやはりピンと来ない。ほとんどゲームをしたことのない咲にとっては、前述された種族のメリット・デメリットがどのようなものなのかが想像できなかったのだ。

 「お悩みのようですね」

  この部屋に入ってきてから数分。悩み続ける咲にリタは優しく笑みを浮かべる。

 「ごめんなさい。あたしこういうのあんまりやったことがなくて」

 「そうですか。差し出がましいようですが、一つ進言を。このゲームでは大きく三つのプレイングがあります。『採取』に『精製』そして『戦闘』です。どの種族でもそれらは可能ですが、戦闘だけは種族によって戦い方が変わってきます」

  リタの指がテーブルの上をスライドすると、指先から流れるようにモニターが目の前に出てくる。

 「簡単にですが、まずは近接戦闘。物理攻撃です」

  モニターには身の丈程の大剣を振り下ろす戦士。そして、それを盾で受け止める戦士が映し出された。

 「次に、中遠距離戦闘。魔法攻撃です」

  モニターが映し出される。今度は杖を持った魔術師が呪文を唱えると、雷が落ちる。

 「そして、最後に特殊魔法を使った援護です」

  最後にモニターに映ったのは近くにいる戦士の傷を癒していく魔術師の姿が。

 「戦闘のプレイングには性格が少なからず影響してきます。そして、それが向き不向きに関わってくることもあります。種族の変更はこれから先、特殊な条件が揃わないと叶いません。難易度も非常に高いです。時間はいくらかけて頂いて構いません。じっくりお考えください」

  分かりやすい説明と急かそうとしない気遣いにありがたさを感じていたが、すでに咲の腹は決まっていた。

  普段の生活の中でだってそうだ。部活でやってるバスケでは自分が主役になるあの感覚が好きでやっていると言っても過言ではない。

  遠くからちくちく攻撃をかけたり、味方をサポートしたり、なんてのは性に合わないのだ。真正面から正々堂々と戦う。それが楽しいのだ。それに通じるところがあるとするならば……。

 「あたし、近接戦闘が得意な種族が良いですっ」

  咲の悩みが解決した様子が微笑ましかったのか、リタの表情もほころんでいた。

 「はい、ではオークをおすすめします。近接戦闘に特化したステータス。使える武器も多岐に渡ります」

 「ありがとうっ、リタさんっ! じゃあ、あたしオークで頑張るよ!」

  リタが一度首を縦に振ると、彼女は呪文を唱える。すると咲の身体の周りを緑色で帯状の光が包みだす。

  指先を皮切りに腕、脚、身体と光は身体を覆っていき、光が消えると同時に咲は自分の姿の変化に気づくことになる。身体事態に変化はない。変化があったのは服装だ。前腕、下腿にそれぞれの倍ほどの太さの鎧が。他の部位もまた鎧に覆われていた。

 「おぉ~っ!」

  重さはほとんど感じない。

 「それがオークの基本装備です。咲さん。これから先、貴女には幾多の困難が立ちはだかることでしょう。心が折れそうになることもあるでしょう。やめたくなることもあるでしょう。でも、その時は今の気持ちを思い出してください」

  そう言うとリタはテーブルの上でまた指をスライドさせる。するとリタの背後の扉が開き、下へ降りる階段があらわとなった。

 「それでは貴女のご武運をお祈り申し上げます」

  おそらくこれもゲームのシステムの定型文だろう。しかし、それに咲は感動と興奮を覚えながら、リタに背中を見せる。階段を降りるとゲームのメインフィールドだ。

  リタに別れの挨拶を告げ、階段をリズムよく降りていく。

 

 「うっわ、ひっろーいっ」

  階段を抜けるとそこは草原だった。しかも、かなりの距離を歩かないとこの草原地帯を抜けられそうもない。どこに向かえばいいかも分からない状況だったが、咲に不安の表情はない。

  勘に任せ移動しようとしたその時だった。上面から咲に声がかけられる。

 「おっ、新規プレイヤーはっけーんっ」

  咲が上に視線を向けると、そこには屋根に腰をかけるローブを羽織った少女の姿があった。

  これが咲が始めて遭遇したプレイヤー。霧島雪きりしま ゆきとの出会いだった。

 



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