第34章

◆第34章 車輪獣狩り◆

◆34-1 陸上最速の獣

 地球の陸上最速の獣はチーターで時速121キロ。トップスピードで500メートル走ることができるという。
 ここ惑星ファーストで最速の獣は時速200キロほど。小回りが効かない欠点があるが、トップスピードの航続距離は1~200キロにも及ぶ。それを実現する特徴としては『車輪』である。

 ここは神の意図が進化に介在している世界。無理な道理をアリエルの力で押し切り、様々な生物が試作された。

 ▼

 東部のアオイ湖・湖畔に赤い光の柱(レッドサイン)が立つ。天使がここにいる魔獣を倒せという目印だ。

【戦士】「始めるぞ・・・・・・よし、騒げ!」
【戦士】「わー!<ゴォォォン、ゴォォォン!>」
【戦士】「かかってこい! うおーっ!<ガンガンガンガン!>」
 適当な金物を叩いて大騒ぎする。

【車輪獣】「ギョワッ!?」
【車輪獣】「ギュッ!?」
 湖畔で水を飲んでいた車輪獣が慌てて逃走を始める。

【戦士】「よし、うまく東へ向かったぞ! 西には一匹も逃がすな!」
【戦士】「一本道に誘導しろ!」
【戦士】「前に出るな! 弾き飛ばされるぞ!」

【車輪獣】「ギョウッ! ギョウッ!」
【車輪獣】「ギョワッ! ギュギョッ!」
 車輪獣。前足付近に鉄製の車軸付きの車輪が作られ、スケートボードやキックボードのように足で蹴って進む。

【リリ】「<パチッ> 5分後、こちらに来ます。レイズ、準備を」
【レイズ】「おっけー。光と水のミラージュ!」
 一本道の突き当りの竹やぶに、幻影のスクリーンが張られる。
【キオ】「おー、道があるみたいに見える! おもしろい!」

 どういう作戦かは説明するまでもないだろう。40匹程度の群れが道があると錯覚し、時速200キロで竹やぶに突っ込んでいった。

【車輪獣】「ギョワ!」「ギャッ!」「ギュッ!」
 車輪獣が悲痛なうめき声を上げてもみくちゃになる。
【戦士】「うわ、まだ沢山、生きているぞ!」
【戦士】「なんて丈夫な奴らだ!」
【ココ】「まずはひっくり返して動けなくして下さい。ひっくり返すと首を伸ばす習性があるのですが、喉のあたりは甲羅もなく柔らかいです。苦しまないように速やかにトドメをさしてあげて下さい」
【戦士】「よーし、ひっくり返すのは得意だ! 大地よ暴れろ、転覆剣!」
【車輪獣】「ギャッ!?」
【戦士】「ごめんよ。えいっ! なるほど、これは簡単だ」
【車輪獣】「・・・・・・ゴボッ・・・・・・(ビクンビクン)」
【エンジ】「大物、発見。キオ殿、まかせるでござるよ」
【キオ】「美味しいところ───いただきぃ! てやぁぁ……っとっと!」
【モリー】「はははは、キオまでひっくり返ってどうする」
【レイズ】「力仕事は男たちに任せますか」
【リリ】「そうですね」

 つつがなく討伐作戦完了。光の柱が消え、上空の天使も去っていった。

【戦士】「この車輪は立派だな。40年物ってところか」
【戦士】「大型の馬車にも使えるサイズだな。高く売れそうだ」
【戦士】「おーい、見ろこの芸術的なホイールを」
【戦士】「おお、こりゃ、オークションが開催されるぞ」
【戦士】「おーい、魔法石も忘れるな」
【戦士】「竹やぶに突っ込ませたのが正解だな。去年のアオバ峠の作戦では岩壁に突っ込ませてみんな即死。おかげで討伐は楽だったのだが車輪が台無しになってしまったよ」
【戦士】「しかし、あっさり済んだな。前回は3方向に逃げられて、全部倒すのに一ヶ月掛かったよ」
【戦士】「偵察がてらのメンバーで、たった2日で済むなんてな」
【戦士】「もしかして、あのとぼけた顔の准将さん、優秀なのか?」

【マスオ】「やー、これは報酬に期待できそうだね」
 総指揮官は『准将・オーリン山岳地帯マスター・マスオ』。
 広域で長期間の作戦になる車輪獣討伐なのだが、地形を利用しかつてないほどの少人数、短時間でやり遂げた。後にどれだけの称賛が待っているかも知らずに、のほほ~んとしていた。

【ココ】「車輪獣と分類される生物は亀系、ワニ系がいますが、これは見ての通り亀系です。かつては鳥系もいたのですが新生紀の初期に滅亡したと考えられています。
 車輪が育っていない子供や、車輪を破損した仲間は背中に乗せて運びます。車輪に生え換わりはありませんが、死んだ仲間の車輪を引き継ぐことが出来ます。引き継いだ車輪の場合はそれ以上に成長しません。
 車輪の成分は鉄。死ぬ時は仲間に錆びていない車輪を残すために、アルカリ性の地を選びます。車輪獣の墓場を見つけると、沢山の車輪が得られるのですが、既にめぼしい場所はあらかたマークされてます」

『暴れる生物学者・ココ』五ツ星魔法使い。
 スペック17歳女。生物の研究のために、世界を自由に往来できる戦士になった変わり者。幸い魔法使いとしても非凡な才能に恵まれる。無気力そうな目をしているが、淡々と長文説明をしゃべる。たまに暴れる。

 時間は少しさかのぼり、ケンタウロス族討伐作戦の後。西部に呼ばれていた東部所属の戦士が東部に戻る途中に発生したクエストだった。

【ココ】「車軸も車輪も接続部がないために丈夫で、中は蜂の巣のような構造で空洞があるので見た目の割には軽いです。壊れた車輪は使える部分を組み合わせて新しい車輪にしたり、他の鉄製品に加工されます。人類史の初期から色々と重宝されていました。
 重宝される一方、車輪獣に轢かれる死亡事故も多く、驚異でもありました。人の生活道には適度に曲がり角や凸凹を作り車輪獣が入り込まないようにしてあります。
 人口飼育を試みた例もありますが、走り回れるほど広い場所がないとストレスで死んでしまい失敗に終わりました。高度文明期には製鉄所が作られ鉄が安くなった事により・・・・・・おっと、しゃべりすぎですね。悪い癖で」

【戦士】「いや、いや、作業のついでに聞く話にしては有意義すぎる」
【戦士】「ヘー、車輪が取れる獣くらいの認識しかなかった」
【戦士】「鉄の純度がいい分、錆びやすいのだが、こいつらはどうサビ防止をしてるんだ」
【ココ】「唾液がアルカリ性なだけでなく防サビ成分が含まれています。商店でよく見かける車輪マークの防サビ剤は、唾液を研究して作られました。
 自分の車輪は舐められないので、仲間の車輪を舐めます。そのあたりが怪我した仲間も見捨てずに、背負って連れて行く仲間意識に繋がっていると考えられています」
【戦士】「へー」
【戦士】「しかし、なんでも知ってるなぁ、この娘」

【ココ】「うーん・・・・・・リーダー、半年くらい暇を貰ってもいいですか?」
【リーダー】「どうした、急に?」
 ココの所属するパーティーの軍師。
【ココ】「ちょっと、西部に戻ります。西部に謎のダンジョンがあるのですが、ちょっと調べたいことができて」
【リーダー】「ああ、ゾンビ・ダンジョンか」
【ココ】「はい、そうです」
【リーダー】「あそこなら結構稼げるし。みんなどうする?」
【メンバー】「レキノ市の近くだよな」
【メンバー】「一攫千金、いいねぇ」
【メンバー】「いいよ。特に目的の場所があるわけでもないし」
【メンバー】「ココを他のパーティーに取られたくないしな。いつも頼りにしてるぜ、敵の弱点の知識」
【メンバー】「それと食べられる生物の知識。サバイバルでも安心」
【リーダー】「って、ことだ。折角だからみんなで行こうぜ」
【ココ】「みなさん、よろしくお願いします」
【メンバー】「いえいえ、こちらこそ」
【リーダー】「元々、ギャンブルの種銭を目当てにゾンビ退治をやらせようってことで、ゾンビ・ダンジョンの近くにレキノ市を作ったって話だ」
【メンバー】「ほぅ、そうだったんだ」

 少し後に多くの謎に包まれていたゾンビ・ダンジョンに有力な一説が生まれることになる。その話はまたの機会に。



◆34-2 オーリン町

 オルル王国・北西部・オーリン山岳地帯。

 オーリン町。
 子連れ歓迎、託児所ありという宿屋が多い町。新米戦士には手頃な難易度であるゴブールが多発する地域で、若い戦士が子育てをしながら戦うのに適した環境だった。

【ウニ】「マスオさん! おかえりなさい」
【マスオ】「ただいま、ウニさん。赤ちゃん。そして、ただいま、お腹の赤ちゃん」

『准将・オーリン山岳地帯マスター・マスオ』五ツ星軍師。
 スペック24歳男。地道に成長を続け、准将になった軍師。

『宝探しの双刀・ウニ』四ツ星剣士。
 24歳女。毒剣と戦闘しながら敵から魔法石をえぐり出す特技を持つ。マスオとは夫婦。ただいま第二子妊娠中により戦士は休業中。

【レイズ】「わー、子供がいっぱいだ。子供ー! うひひひ、触らせろー! 揉ませろー!」
【子供たち】「わーなんだこのねーちゃん!?」
【子供たち】「変態だー! 逃げろー!」
【レイズ】「待てー!」
【子供たち】「きゃーきゃー」
【レイズ】「ほら、オウムさんだぞ」
【ペリー】「くわっ、くわっ」
【子供たち】「わーわー」
 レイズのお供、オウムのペリー。描画を忘れてますがいつも一緒です。
【レイズ】「はい、手品。ボールが2個に3個に4個に」
【子供たち】「おーすげー」
【レイズ】「光と水のミラージュ。イリュージョン!」
【子供たち】「わーすっげー! おねーちゃん、すっげー!」
【レイズ】「しっぽ、しっぽ。触らせてあげよう。もふるがいい」
【子供たち】「もふもふだ!」
【レイズ】「うへへへ~」
 子供たちにもみくちゃにされ、目をキラキラ輝かせているレイズだった。

【ノイン】「へー、レイズちゃん、こんなに子供好きだったんだ」
【リリ】「私も知りませんでした」
【カシミヤ】「面倒見てくれて助かるけど・・・・・・あれ、性癖的な意味の子供好きじゃないよね?」
【ノートン】「ん、んだんだ」
【リリ】「ど、どうなのでしょうか」

『戦場を翻弄するイカサマ師・レイズ』五ツ星魔法剣士。
 スペック16歳女・狸族。レキノ市で生まれ育った少女。幼い頃からギャンブルで鍛え抜かれた駆け引きにより敵を欺く。先の西部・剣聖選抜大会では本戦出場の実力者。

『千手先を見通す瞳・リリ』五ツ星剣士。
 スペック19歳女。兎族。数分後の未来のビジョンを見る予知能力で戦う。先の西部・剣聖選抜大会では本戦出場の実力者。

『静かなる癒やし・ノイン』三ツ星ヒーラー。
 24歳女。シールド・回復。毒・麻痺の軽減。マスオパーティーの常連。

『S字旋回の軌跡・カシミヤ』三ツ星弓士。
 22歳女。毒矢使い。マスオパーティーの常連。

『薪割り名人・ノートン』三ツ星斧使い。
 23歳男。サポーター。木こりとの兼業。マスオパーティーの常連。奥さん『チズエ』23歳女。みんなの留守中に宿屋で子どもたちの面倒を見ている。

【レイズ】「いやー、堪能した! 子供、最高!」
【リリ】「はしゃぎすぎです」
【ノイン】「男だったら通報されるわ」
【カシミヤ】「可愛い女の子で良かったわね」
【ノートン】「んだんだ」
【カシミヤ】「子供好きだったんだな。極度の」
【レイズ】「子供はいいねぇ。特にお腹とお尻のプニプニ感。じゅるり」
【ノイン】「や、やはり通報しておこうか」
【レイズ】「リリ、早く産んでね」
【リリ】「相手がいません。一緒にいるんだから知ってるでしょ?」
【レイズ】「いっそ、私がリリの子を産む!」
【リリ】「レ、レイズがおかしくなってます!」

 ▼

 翌朝。

【リリ】「配属の知らせが来てしまいました。今日にはここを発たなければいけません」
【レイズ】「あーん、しばらく子供に囲まれていたかったのに~」
【カシミヤ】「これは・・・・・・きっとレイズちゃんが逮捕される前に子供から遠ざける天の采配・・・・・・というかマザー・エンビアの采配」
【ノイン】「人工衛星マザー・エンビアは、適所に人材を配置するシステム・・・・・・あり得る!」
【ノートン】「んだんだ」
【マスオ】「あはは、そこまで考えているのかなぁ」
【ウニ】「北の方じゃないの?」
【リリ】「はい、イスタン王国、北端の方にある街です」
【レイズ】「北で何かあるの?」
【ウニ】「ほら、来年の剣聖選抜は北部だから。強者は剣聖選抜に引き寄せられるって言うじゃない」
【リリ】「もう出る気はないのですが」
【レイズ】「剣聖選抜はもう懲りたよ」
【マスオ】「選抜に出なくても、誰かを強くするために、誰かに影響を与えるために引き寄せられるんだと思うよ」
【レイズ】「キオかな?」
【リリ】「うふふ、きっとキオね」
【マスオ】「あの大きな声の少年だね」
【ウニ】「“あいつ”も引き寄せられてそう」
【ノイン】「あいつはそのうちに有名になるだろうな」
【カシミヤ】「生意気だけど」
【ノートン】「んだんだ」
【リリ】「ハーレムキングを倒したという期待の新人ですね」
【レイズ】「西部剣聖選抜の予選には出てたのかな?」
 レイズとリリはネロと面識はない。マスオたちはキオたちとはちょっと話をした程度。全員、キオとネロの接点については知らなかった。




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